龍と潤夜の現在の関係。
其の名は忌み、畏れられ。而して、其の名は秩序となり。
そして、其の名は畏怖を負っている。
其の名は"龍"。
総ては此の名に収束する。
【一方通行、三角関係。】――嵐の前の静けさ
――私立海条学院大学附属海条高等学校。この街、否、この辺りの街は皆、此の高校に通う、1人の生徒を中心に廻っていると云っても過言では無いだろう。
其の人物の名は龍牙。
通称《海条の"龍"》と云われ、畏れられている。
まさに孤高の一匹狼で在る"龍"。
しかし、其の畏怖の象徴が唯一認める存在が居る事を知る人間は多く無い。
畏怖の幼なじみで在る"潤夜"。
而して、彼が何故、畏怖に認められて居るのかを知る人間は極僅かだった――。
いつも通りの海条高校。
しかし、このまま何事も無くは終わらない、と云う事をまだ潤夜は知らなかった。
キーンコーンカーンコーン
「おっしゃぁ!授業しゅーりょー!飯買いに行くかぁ!」
そして、潤夜は廊下へと出て行った。
購買は1階。
廊下を突っ切り、階段を降れば直ぐだ。
しかし、その途中。
潤夜は、見覚えのある姿と、それを取り巻く状況を視認し理解した瞬間、直ぐさま其の人物に向かって走り出した。
「えっ…?!ちょ…っ、ストップストップ!何やってんだよ、リョウ?!」
其の孤高は潤夜の声に緩慢に振り向き、
「何って…売られたケンカを買っただけだ。邪魔をする奴らはまとめて相手してやるが?」
潤夜の方に向かって不敵な笑みを浮かべ、言い放った。
挑戦的な龍牙に対して、潤夜は少し考えると、溜め息混じりに妥協案を出した。
「……ふぅ。分かった。俺が相手する。」
それを聞いた龍牙は強い相手と戦える喜びに笑みを浮かべる。
「それは楽しみだな。」
しかし、潤夜は無表情のまま続ける。
「但し、3分以内に俺が倒れなかったら、俺の勝ちって事で今回はそいつらには手を出すな。」
まさに得難い獲物を見つけた肉食獣のような目つきだった龍牙が、少し眉をしかめた。
だか、すぐに表情を戻すと戦う為に集中する。
「……いいだろう。君と戦えるならそれ位の事どうでも良い。」
軽く片足を引き体重を僅かに前に置いて、全体の重心を下げると、今回の武器である拳を構える。
対して、潤夜も同じく戦闘体制になると借りた竹刀を片手に構える。
沈黙が横たわる。
暫くの後、2人は同時に足を踏み出した。
2人は気付いていなかった。
これから嵐の原因となる少女が熱い視線で龍牙を見つめていた事に。
そして、その少女は潤夜が密かに想いを寄せている少女だという事に。
「あんまり校内では戦んなってば。」
「んでだよ。」
「リョウだって校内の秩序が揺らぐのは望むところじゃないだろ?」
「秩序を守る為に戦ってんだろうが。」
結局3分以内に決着が着かなかった2人は、潤夜がなんとか龍牙を宥めて屋上まで連れて来ていた。
「……水掛け論だな。まぁ良いや。とにかく、もう少し大人しくしてくれな?頼むから。」
「……考慮する。」
潤夜が龍牙の為に言っている事が分かるからこそ、龍牙は潤夜の言葉に耳を貸すのだった。
重大な秘密を隠す為に……。
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