Whimsically.

Whearabouts.

 ――2月初め。

 もうすぐ高校2年生になる鈴木 榎奈(すずき かな)。

 しかし、彼女は進級どころではなく。
 精神的に追い込まれていた・・・。

01――再会。

 ――夕暮れ。

 彼女は学校が終わってから、家にも帰らず、ずっと人気のない公園で泣き続けていた。

(っ、どうしてっ・・・?!どうして、こんな・・・・・・。)

 もう、何かを考えることも出来ずにいた。
 それほどに、このことは彼女にとって大きなものだったのだ。

(私に、大切なものを持つことは許されないとでも言うの・・・?!)

 榎奈は絶望の淵に追い遣られていた。
 と、その時、声が、聞こえた。

「・・・・・・榎奈?」

 聞き慣れた、声。
 しかし、わずかに違和感を感じさせる、その、声。

 彼の声を聞いたとたん、自分が安堵するのを感じつつ、反対に恐怖も生まれ、一瞬体が強張ってしまう。

「榎奈?!お前、何でこんなトコに・・・?!しかも、制服!もしかして、家に帰ってないのか?!」

 もうすぐ、日が落ちる。

 心配、驚き、焦り・・・様々な感情が渦巻いているのが分かる。
 しかし、そこに負の感情はないのだろうか・・・。
 彼女と会いたくない。とは、思わないのだろうか?

 榎奈は座ったまま、そろそろと顔を上げる。
 すると、そこにはトレーニングを兼ねているのだろう、ウィンドブレーカーを着、犬を連れている、岡本 悠斗(おかもと ゆうと)の姿があった。

「悠斗・・・・・・。」

 それは、久しぶりに見た顔だった。

 無意識のうちに彼の家に近い、この公園に来たのは、再び彼と会えることを期待していたからなのだろうか・・・。

 彼女を追い詰めた原因の1つである、彼と・・・・・・?

「榎奈、どうしたんだ?何が、あったんだ・・・?」

 心配そうな顔をして、榎奈のほうに近づいてくる。

「とにかく、寒いだろう?コレ、着てろよ。」

 彼女がコートも着ていないことに気づき、そっと、彼女の肩に自分の着ていたウィンドブレーカーをかける。

「・・・うん。ありがとう・・・・・・。」

 まだ、彼を見るのはつらかった。
 彼の姿を視界から外すため、足元に近寄ってきた、まだ子供のコーギーに手をのばす。

 悠斗もそのことに気づいたのだろう。
 手をのばして届くか届かないか、ギリギリの距離をとる。

 しばらく、気まずい沈黙が横たわる。

 先に口を開いたのは悠斗の方だった。

「・・・ごめん。俺、いない方がいいよな・・・。お前の気持ち考えずに、声、かけちまって・・・。」

 そう言うと、いくぞ。と、コーギーのリードを軽く引っ張り、榎奈に背を向け、歩き出そうとした。




『また、離れていく・・・・・・。』




 榎奈に、とてつもない恐怖が襲い掛かった。

「っ!待って!」

 恐怖を感じた瞬間、頭で考えるより先に体が動いていた。
 立ち上がり、彼を引き止めていたのだ。

「・・・榎奈・・・・・・・・・?」

 彼女の切羽詰った声と表情とで、悠斗は榎奈が相当追い詰められているのだと、気づいた。

「おねがっ・・・独りに、しないで・・・っ。今、だけでも・・・いいから・・・・・・。側に、いて・・・っ。」

 嗚咽を繰り返し、うつむく。

 悠斗はリードを近くの木の幹に引っ掛け、足早に榎奈の方へと駆け寄る。

「ごめっ・・・。わがまま、言ってるのは、わかってる・・・。けど、今だけは・・・・・・今、だけは、お願いっ・・・・・・。」

「うん・・・。大丈夫。榎奈の気が済むまで、ここにいる。」

 ゆっくりと、彼女の肩を抱き、ベンチに座らせる。
 そして、今度は自分も、その隣に座る。

「大丈夫。ここに、居るから・・・。」

 悠斗は、榎奈が落ち着くまで優しく『大丈夫だから。』と、何度も、繰り返した。

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