Whearabouts.
02――事実。
榎奈が落ち着いたのは、其れから暫く経ってからだった。「…有難う。御免ね?もう、暗くなっちゃったね…。」
先ほど悠斗が買ってきたホットココアの缶を両手で抱え込み、呟く。
「いや、俺は構わないよ。一応、男だし?此れ位の時間までトレーニングしてることも珍しくないからさ。…其れより、榎奈の方こそ、大丈夫なのか?親、心配してるんじゃねぇ?」
俯き加減になっている榎奈を少し覗き込むようにして、尋ねる。
「大丈夫。今、お父さん出張中だし、お母さんも、今日は遅くなるって言ってたから…。」
顔を上げ、悠斗の方を見た榎奈は、少し、調子を取り戻したようだった。
「有難う。側に居てくれて。もう、大丈夫だよ。」
そうして、悠斗に対して笑顔を見せたが、まだ、無理をしているのは隠し切れていなかった。
「…榎奈。とても大丈夫そうには見えないぞ?…言い辛かったら構わないけどさ。何があったか、話してみねぇ?誰かに話した方が、気が楽になったりするしさ。」
彼女のことが心配で。
話してくれるだろうと思い、声を掛けたのだが、悠斗の予想していた反応は返ってこず、彼女は目線を落としてしまった。
「…俺には、話せない、か……。」
榎奈は黙り込み、更に深く俯いてしまった。
「そうだよな。俺が、榎奈を、裏切ったんだ。信じられるはず、ないよな…。」
独り言のように、呟く。
「ちがっ…!そうじゃなくてっ。」
榎奈は跳ねる様に顔を上げ、彼の方を見た。
つられる様にして、悠斗も彼女の方に目をやるが、榎奈は視線が合うと、再び、俯いてしまった。
「そうじゃ、なくって………。」
再び、沈黙が訪れる。
しかし、今度は短い時間で遮られた。
「…今、私、藤堂 智也(とうどう ともや)と付き合ってるんだ。」
ふと、顔を上げ、淡々と話し始めた。
「藤堂 智也って、確か、バスケ部の…。」
「そう。バスケ部の現キャプテン。元々、すごい人気があって、私なんかが付き合えるなんて、思ってなかったんだけど…。」
一旦切ると、一度軽く深呼吸をして、続ける。
「今日、彼がさ、学校で、他の女の子と…キス、してるの見ちゃって……。」
悠斗は驚き、一瞬、声が出なかった。
「…浮気、か……。」
榎奈はこくんと頷く事で答えを返した。
「俺らが別れた理由と同じ、って訳か…。」
榎奈は少し躊躇い、そして再び、頷く。
「それで、俺には言い辛かったのか…。」
悠斗は自嘲の笑みを浮かべ、
「耳に、痛い話だな……。」
と、呟いた。
榎奈は、はっ と彼の方を見、
「御免!そんなつもりで言ったんじゃ…!」
と、焦って答える。
「うん。分かってるよ。榎奈はそんな子じゃ、ない。それに……あの事は、全部、俺が悪いんだから、自業自得ってもんだよ。まぁ、得は何も無かったけど。」
悠斗は苦笑し、榎奈の方を見やった。
「本当に、ごめん、な?傷つけちまって……。」
悠斗の痛そうな表情を見て、榎奈も胸に詰まるものを感じた。
「ううん。もう、大丈夫だよ?気にしてないから…。」
と、言うが、とてもそうとは思えなかった。
「榎奈の『大丈夫』ほど、信用為らないものは無いな…。」
そう言って悠斗は榎奈のほうを見つめるが、何もしてやれない自分に無力感を感じ、情けない気持ちで一杯になった。
「家まで、送るよ……。」
立ち上がり、手をのばす。
「……うん。」
それでも、彼女が自分の手を取ってくれた事が、無性に、嬉しかった…。
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