Whimsically.

今日もまた。

私達は様々な訓練を受けている。
戦闘訓練を始め暗殺や護衛についての訓練はもとより、この業界で必要とされる苦痛に対して耐性をつける拷問訓練や拷問する方の訓練。
意外と知られていないが、効果的な拷問の方法というのもあり、確実に欲しい情報を引き出すためには学ぶ必要があるのだ。
そして、このあたりまでは普通なのだが、私達の所属部署ではトップの意向によりもうひとつ必ず受けなければならない訓練がある。
それが、性的快楽についての訓練だ。
組織が開発したヒートドラッグと呼ばれる、まぁ、言ってしまえば媚薬なのだが、そうと言うには生易しい効果を持つ恐ろしくも役に立つドラッグが存在する。
カプセルと呼ばれる飲み薬をメインに、ローション、粘膜に塗り込めて使うジェル、パウダー、注射タイプ、遅効性のものから速効性のものまで様々な種類がある。
それらを使い悪魔のような快楽に耐え且つ正気を保つ訓練。
この訓練は決して情報を漏らすことを許されない諜報という部署にとって、一部の者が行う快楽的拷問にも耐える必要性がある為行っている。
しかし、この訓練をクリアするのはとても困難で時間も手間もかかる。
それでも行う必要性を私達のトップは感じているそうだ。
そして、それを終えるとやっと諜報についての訓練を受ける事ができる。
ここまでたどり着ける者は少数であり、途中で精神的バランスを崩し脱落する者も多い。
それでも尚、私達の部署を希望する者が後を絶たないのは、ステータスになるのは勿論、トップの人徳故もあるのだろう。
話を戻そう。
諜報訓練に入れば性的訓練から解放される訳ではない。
今度は相手から情報を引き出すための方法のひとつとして快楽を与える方の訓練もするのだ。
要はターゲットに接触してうまく懐に入り込んだ後、早急に目的を果たすためにカラダを使うという事だ。
どんなタイプの相手でも惚れ込ませる方法、といえば話は早いか。
なので、心理学的な勉強もかなり多いのである。
そして、全ての訓練を終えると最終審査で、トップ自らが行う試験がある。
彼女からあるひとつの情報を引き出すという試験である。
といっても彼女は当然とても忙しいので新人ひとりに割く時間はない。
その為、試験といっても彼女の側仕えに放り込まれ、そこで与えられた別件の仕事をこなしつつ行わなければならない。
そして、その試験で目的の情報を引き出せた者は過去を遡ってもただのひとりも存在しない。
仕事ができるか、諜報の技術はどの程度か、その他必要事項を彼女自身が見極め、使えるか判断するための試験である。
その結果で配属が決まってくるわけだ。
そして、それは身内にも容赦なく行われ判断が下された。
だから、私が彼女の側近として存在できているのは身内だからではなく、本当に努力したからなのである。
それを彼女を知る人物はよく分かってくれている為、息子だからだろ、という陰口は実質言った本人を貶めているのだ。
彼女を知れる程近くには行けなかった者の無知の僻みなのだから。
だから、気にしていない。
「デュー、ちょっとエヴァの相手してきてちょうだい。2~3日は手が空くでしょう?」
「かしこまりました。引き継ぎはシンディに行っておきます」
「わかったわ。よろしくね」
「はい。失礼致します」
そう。だから、これも気にしていない。
気にしてはいけない。
彼女の弟君の相手をこなせる者は少なく、それを仰せつかるのは技量を認められている証なのだから。
たとえ、己が彼に特別な感情を持っていたとしても。
認められて与えられている仕事なのだから、その信頼を裏切る訳にはいかない。
だから、気にしない。
己を救ってくれた彼女の為にこの命を捧げると決めたのだ。
決して、裏切る訳には、いかないのだ。
――コンコン
「失礼致します」
ノックの返事が返ってこないのはいつもの事なので、躊躇わずそのまま入室する。
部屋に入ると既に灯りは薄暗くされ、彼は窓際のテーブルでひとりワインを嗜んでいた。
「おー、今日はデューンか。いいねぇ。姉貴も粋な計らいをする。お前の事は結構気に入ってるんだぜ?」
「…光栄なお言葉ありがとうございます。私はどうすれば良ろしいでしょうか」
「そうだな、とりあえず舐めといて。これ飲み終わったらベッドでやろうぜ」
「かしこまりました」
彼の言葉に一瞬心臓が跳ねそうになったが、意志の力で抑えつける。
代わりにメインの場所がベッドなら少しは身体の負担も減るかもしれない、いや、大して変わらないか、と現実的な思考を巡らせる。
とりあえず、一向に体勢を変えようとしない彼の指示をこなすため、机の下に潜り込み、足元に跪く。
「失礼致します」
彼の前を寛げ現れたソレを躊躇なく口に含む。
最初からある程度の硬さを持っていたそれを喉の奥まで咥え込み、吸いながらも舌と頭を動かして抽挿する。
舌は裏筋を中心に攻め、時折亀頭や鈴口を先で擽る。
単調な動きでは飽きられてしまうため、全体を舐めるようにしたり、抽挿をやめ強弱をつけながら喉奥で吸ったりと趣向を凝らす。
そろそろかな、と最後に彼が一番弱い裏筋側の亀頭頚を責める。
すると、一瞬陰茎が膨らんだかと思うと、口の中に苦味と塩味のする液体が放たれる。
それを躊躇わず飲み込むと、ワインを飲み終えた彼がこちらを見ていたのに気付く。
視線を合わせたところで口の端を歪ませた彼がベッドに誘うのに慎重に感情を押し込めてついて行く。
これからの時間、身体が本当の悲鳴を上げるまで、彼の趣くまま望むままに行動しなければならない。
決して気持ちを悟られないように。
望まれたことだけを。

◇◇◇

気がつくと翌日の夕方だった。
いつものことだが失神していたらしい。
しかし、これもいつものことだが、目覚めた場所は彼の部屋ではなく、医務室のベッドの上だった。
「っ……!」
なんとか上半身を起こそうとしたのだが、あちこちが軋んで痛みを訴え、息の詰まった声が漏れただけで力も入らなかった。
すると気配で気付いたのか医務室の人間がカーテンを少しだけ開けた。
「あっ起きたぁ?」
そして、覗き込んで来たのは同年代の、デューンと同じくらい小柄で、丸眼鏡をしていても目がくりっとしたのが分かる愛嬌のある顔をした知り合いだった。
「……ステファン、君が今日の担当だったのか……」
「そうだよぉ~。エヴァ様の相手したんだってねぇ。お疲れ様ぁ。でも、エヴァ様の相手をしてそれだけ動けるってホント流石だよねぇ~」
ひとりで起き上がる事も出来なかったのだが、それでもいつも他の医療班の人間も感心するところから、エヴァのプレイの過激さが推して計られる。
特に彼らは直属の上司であるエヴァ――彼は医療班の長なのである――の事をよくわかっているので、尊敬はするものの、性行為の相手は絶対したくないというのが皆の共通の見解らしい。
まぁ、毎度毎度彼によってボロボロになった男女を治療していれば、相手をしたいとは冗談でも思えなくなるのは理解出来る。
自分も、彼女の命令でなければ、彼の事を想っていなければ――。
そこまで考えて思考をシャットダウンする。
考えてはいけないことを考えようとしてしまった。
彼女の、養母であるトップの命だからエヴァの相手をしているだけ。
それだけのはずだ。
「……って聞いてるぅ?」
そこまで考えたところでステファンの懐疑的な声によって一気に現実に引き戻される。
「ごめん、聞いてなかった。何の話をしていたっけ?」
ステファンの機嫌を損ねないように、以前言われた通り極力敬語を外して聞き返す。
彼には、敬語で話されると疎外感を感じるから普通に話してと頼まれ、世話になっている事もあり承諾した経緯がある。
それでも癖の敬語はなかなか抜けない時もあるのだが、そうするとステファンは決まって黙って頬袋を膨らませる。
それでは話が進まないので言い直すと笑顔になって話を続けてくれるので内心ホッとする。
その会話もやっと慣れてきて、今の敬語でもなく、昔の粗野な言動でもなく、普通の言葉を覚えるいい機会だとも思えるようになってきた。
その事でも世話になっているという感覚がある。
そして、今回もいつも同様、機嫌を直して話を続けてくれる。
「だからぁ~、ってもういいやぁ。とりあえず検温しようか~。それと跡とかもどうなったか確認したいしぃ」
幸いそんな大した話題ではなかったらしく、彼の業務に戻ることにしたらしい。
テキパキと仕事をこなす彼の言うとおりにしながら、一通りの確認を済ませると、ステファンはカルテを見ながら何度か軽く頷いていた。
「うん。これなら明後日には普通の事務業務になら戻れるかなぁ。流石はデューンだぁ。でも、無理しちゃダメだよぉ~?単独任務とかはモチロン禁止~。これは医療班としての決定ねぇ。上には伝えとくからぁ。んで、明日までは絶対安静ぃ。っても動けないかぁ。あははぁ~」
通達をすると、じゃあねぇ~と手をひらひらさせながらカーテンの外に出て行き、通常業務に戻ったらしい。
またひとりになると、考えてはいけないことを考えてしまいそうになる。
とりあえず、トップのスケジュールを脳内で確認して、あれはどうなったかなこれはどうだったかなとひたすら仕事の事を考えるようにする。
いつもこの時間は苦痛だ。
せめて体が動くようになれば違うのだが、今は考える事くらいしか出来ることがない。
それでもエヴァの相手を引き受けるのは命令だからか、それとも……。
翌々日から仕事に戻り、また忙しい日々に戻っていく。
仕事が忙しければ余計な事は考えない。
ただただ仕事をこなしていく。
また、あの人に会うまでは……。

To be continue.

2016/05/25 up
BACK← →NEXT(coming soon...)
top