#うちの子で童話パロ~赤ずきん~
「おーいアルディ、じゃなっかた赤ずきん。ちょっとおつかい行ってきてくれ。」「はーい!」
ある日、アルディこと赤ずきんちゃんは病気のおばあさんの所へワインとお薬を届けに行く事になりました。
「おばあちゃん元気かなぁ~?多分元気だよねー。おばあちゃんだもん。」
おばあちゃんは病気で寝込んでいますが、赤ずきんちゃんは知らないようです。
知らないだけです。多分。
その姿を見ていた芳樹こと狼は赤ずきんちゃんを襲う事に決めました。
さて、狼はおばあさんの所に先回りしよう――という卑怯なまねをせずに赤ずきんちゃんの前に飛び出しました。
「食べちゃうぞー!」
「あ、わんこだー。」
「!?」
怖がらせてやろうと思っていた狼の威嚇もよそに、赤ずきんちゃんはわんこ――じゃなかった、狼に近寄ってきて撫で始めました。
「いや、俺、狼なんだけど!わんこじゃないし、お前を食べようとしてたんだけど!」
狼は焦ります。
「狼さん?もふもふだねぇ。俺、おばあちゃんのところに行くんだけど、狼さんも一緒に来る?きっとおいしい食べ物もあるよ!」
「いや、俺、お前を食べようとしてたんだけど……。」
狼はにこにこしている赤ずきんちゃんに毒気を抜かれ、結局おばあさんの所に一緒に行く事にしました。
「あ、あのきのこおいしそうだねー!」
「それ、だめだって!毒キノコ!危ないから!」
「そうなの?あ、ちょうちょだ!」
「こら!迷子になるでしょ!ついてっちゃだめ!」
「あ、狼さん、お花摘んでいこうよ!おばあちゃんもきっと喜ぶよ~!」
狼は赤ずきんちゃんを守るために大忙しです。赤ずきんちゃんがおとなしくお花を摘んでいる間にやっと一息つけました。
(どうしてこうなった……。)
狼は項垂れました。
(いっそ、ここにおいてくか……?いやいや、それはあまりにも無責任だ!)
狼が悪魔の声と戦っていると、にこにこしながら赤ずきんちゃんが狼の背後に回りこみました。
「狼さん。」
「!?」
すると、赤ずきんちゃんは、背中に隠していた花冠をぽすんと狼の頭の上にかぶせました。
「かわいー♪」
「……。」
花冠はちょっと大きかったようで首輪みたいになりましたが、狼はそれどころじゃありませんでした。
なんと、赤ずきんちゃんの笑顔に恋をしてしまいました!
(俺がこの子を守ってあげよう。ずっとずっと、魂が朽ち果てるまで。)
「じゃあ、おばあちゃんのところに行こっか!」
「あ、ああ。」
赤ずきんちゃんは何も知りませんが、終始ご機嫌です。
そして、とうとうおばあさんのうちに到着しました。
「コンコン。おばあちゃんいますかー?」
「いるわよー、入っておいでー、赤ずきん。」
赤ずきんちゃんがドアを開けて、おうちに入ると、ナスティアことおばあさんは退屈そうにナイフ投げをしていました。
「おばあちゃん、元気にしてたー?」
「元気よー。暇すぎて退屈してたくらい。赤ずきんが来てくれてうれしいわ。」
おばあちゃんは病気――のはず――ですが、元気なようです。
でも、なぜ、ナイフ投げをしていたかは永遠の謎です。
「ワインとお薬を持ってきたよー!はいどーぞ。」
「あら、ありがとう。疲れたでしょう?早速このワイン空けちゃいましょうか。そこの狼さんも一緒に。」
「!?」
「わーい!」
狼は赤ずきんちゃんの陰に隠れていたのですが、しっかりとバレていた様です。しかも、赤ずきんちゃんと違ってちゃんと狼だと認識されているようです。
狼はおずおずと出てくると、赤ずきんちゃんやおばあさんと一緒のテーブルに着きました。狼がどうやって座ったかはご想像にお任せします。
「このワイン好きなのよねー。あぁ、後で、この薬も販売ルートに乗せないとねー。需要が高まっている今がチャンスなのよー。」
「そうなんだー。」
「!?」
どうやらお薬はおばあさんが飲む為の物ではなかったそうです。怪しい薬のようですが、おばあさんは一体何者なのでしょう。狼は驚くばかりです。
しばらく――主におばあさんと赤ずきんちゃんが――わいわいと話していると、ふと、おばあさんが扉のほうを向きました。
「……来たみたいね。」
「?」
「?」
赤ずきんちゃんと狼が同じように首を傾げていると、いきなり玄関の扉が開け放たれました!
「!?」
「あ、狩人さんだー。」
「……。」
狩人が大きなライフルを持ってやってきました。狼、ピンチです。
ところが――
「ナスティア様、こんな所にいらっしゃたのですか。早く仕事に戻ってください。」
「デュー、今、私はおばあさんよー。」
「そうですか。ではおばあさま。早く仕事に戻ってください。書類やら何やらが溜まっています。」
「……帰りたくないわ……。」
「!?、!?」
狩人はなぜか狼には目もくれず、おばあさんに詰め寄ります。
「おばあちゃん、お仕事はしなきゃだめだよー。みんなが困っちゃうよ?」
「?、!??」
狩人が狼を気にもしていない事に、戸惑っているのは狼だけのようです。
赤ずきんちゃんもおばあさんも、もちろん狩人も気にした様子はありません。いや、むしろいつもの光景、といった感じです。
「ほら、行きますよ。」
「いー、やーぁ!」
「行ってらっしゃーい!」
「?、!?、!!?」
なんと、おばあさんが狩人に連れて行かれてしまいました。おばあさんのおうちには赤ずきんちゃんと狼の二人っきりです。
「ふふっ」
「?」
すると、なぜかくすっと微笑った赤ずきんちゃんに、謎がいっぱいの顔を向ける狼です。
「やっと二人っきりだね、芳くん。だいすきだよっ!」
「!!」
こうして、赤ずきんちゃんと狼は仲良く暮らしましたとさ。おしまい。
2015/11/16 up