Whimsically.

【闇の中の彼】

暗闇の中、走る。
彼の元に。
真実を求めに。

そうして、彼を見つけた。

「だから、来ないで欲しかったのに」

彼は血溜まりの中に立っていた。

【闇の中の彼】

彼の言葉に従い、狭く薄暗い路地裏を出て、私の部屋へと場所を移した。
彼に目立った傷は無かった。

「どうしてあそこに来たの」

責める響きを宿した言葉。
彼は表立って人を気遣う事をしない。
彼は彼独自のルールに従って生きている。

「貴方が心配だったからよ。」

あの時、あのメモを見つけた瞬間、酷く胸騒ぎがした。
だから、彼を探した。メモの言葉に逆らって。

「説明して?何であんな事をしてたのか。」
「それは出来ない。僕等には沈黙の掟-オメルタ-がある」

彼は表情ひとつ変えずに、即答した。

「……じゃあ、話せる事だけ。それだけでいいから」

今度は少し言葉に困ったように、間が空いた。

「それで君は満足するの?」
「…ええ。構わないわ」

そして、彼があるイタリアンマフィアに所属していて、先程のは仕事だったのだと知った。

「僕は君と違うから」

一呼吸、間が空く。

「目的の為なら、君さえも犠牲にする」

彼は厳しい目をしていた。

「……じゃあ、なんであんなメモ残したの?」

彼の行き先と、そこには近づくなという警告。
それと、もう関わるなというメッセージ。

「君はとっくに気づいていたかと思ってたけど」

一度言葉を切る。

「邪魔になったんだよ。君が」

多少予測が出来た言葉だったけれど、それでも衝撃は受けた。

「……そう……。それで?」

続きを促すように返せば、彼は眉間に皺を寄せた。

「それでって、それだけだよ」
「嘘ね。だったら貴方はあんなメモ残したりしない。黙って消えるわ。跡形もなく。違う?」

彼は不必要な嘘は吐かない。だからこそ、沈黙はYES。

暫く静寂が横たわる。
すると、彼はひとつの溜め息の後、ぽつりと呟いた。

「僕は本当に生きていていいのか分からないんだよ」
「………。」
「だからこそ、辞めるつもりはない。」

強く言い放つと、部屋から出て行こうとした。

「狂いそうになるよ」

彼がぽつりと呟いた。

「…早く帰ってきてね」
「………。」

扉の閉まる音がよく響いた。

彼はマンションの部屋の扉に凭れ、自分に言い聞かせるようにひとり呟く。

「…答えはこれで合ってるよ」

正面に広がる空は綺麗な朝焼けで。

「こんな汚れた手でも君を救えるの?」

両手を広げ、目の前に掲げた。





~御題配布先~
氷蝶 管理人:蒼荻音桜 様

台詞で10のお題より選択
「それで君は満足するの?」
「目的の為なら、君さえも犠牲にする」
「だから、来ないで欲しかった」
「…答えはこれで合ってるよ」
「…早く帰ってきてね」
「君はとっくに気づいていたかと思ってた」
「狂いそうになるよ」
「僕は本当に生きていていいのか分からないんだよ」
「こんな汚れた手でもあなたを救えるの?」

2009/05/07 up
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