Rectangular.
02――生活。
「可愛いぃーっ!」優は部屋のドアを開けた瞬間、思わず叫んでいた。その様子を珀斗が、彼女の斜め後ろで穏やかそうな笑みを浮かべ、眺めていた。
「…中に入って見てみたら?」
珀斗が促すと、優は素直に部屋に入り、楽しそうに家具や置いてある小物を見ていった。
それらの物は、雰囲気で統一されていて、細かい施しなどは綺麗で女の子らしいものばかりだった。
「…気に入った?」
珀斗が荷物をベッドサイドのテーブルに置きながら尋ねると、棚を見ていた優は、嬉しそうな声と表情で振り返り、
「うん!!すっごく!!」
と、返した。
「そう…。それは良かったよ。」
と、彼が浮かべた微笑に、優は思わずドキッとしてしまった。
(うわぁっ!流石モデルッ!綺麗~っ!!)
優が彼の顔をじっと見ていたので、珀斗は少し不思議そうに尋ねた。
「…僕の顔に何か付いてる?」
「えっ?!ううんっ!何でもないっ!御免ね?」
優は赤面し、慌てて部屋の中に視線を戻した。
「そっそういえば、家具とか小物とか、結構新しそうだけど、珀斗君が用意してくれたの?」
此の部屋に在るものは傷も無く、更には見るからに女の子の物だと分かる代物ばかりで、とても男の子2人暮らしの家に在ったものとは思えなかった。
「あぁ、仕事先の知り合いに手伝って貰ったんだよ。やっぱり、女の子の物は女の子に選んで貰った方が良いかと思って。」
「そうなんだ。…じゃぁ、その仔にもお礼を言って置いて下さい。とても気に入りましたって。」
彼女は笑顔で答えたが、少し寂しいような、そんな気分だった。
(何でだろ…?なんか、寂しい……?)
自分の気持ちに疑問を覚えつつ、あまり気にしない事にして、また部屋を見て廻る。
カーテンやベッドカバーなどは上品なベージュに薄いピンクやクリーム色で、繊細な模様が描かれている。ベッドは西洋風のパイプベッドで、此れもまた唐草模様に装飾が施してある。クローゼットなどの家具はアンティーク調で、電燈も部屋の雰囲気に合わせた小さなシャンデリアのようだった。
(なんだか、西洋のお姫様にでもなった気分♪)
優がはしゃいでいると、珀斗が声を掛けた。
「君の部屋の向かいが翼斗の部屋で、隣が僕の部屋。それで、その向かいの部屋、つまり翼斗の部屋の隣が、あいつの物置だ。…と、言っても以前にあいつが使っていた部屋が散らかりすぎて物置と化しているだけだから、入らない方が良い。」
「…うん。分かった。」
なんだか、やけに真剣そうに言われたので、優の方もつられて、真剣に入らない方がいいんだ…。と、思っていた。
「君の荷物は、此処に置いておいたから。」
と、珀斗は彼女の荷物を指差した。
「うん。有難う。」
素直に頷き御礼を言う。しかし、彼女には一つ、気になっている事が在った。
「ねぇ…、珀斗君。えっと…勿論、嫌だったら良いんだけど……」
「何?」
躊躇っている様で、たどたどしく歯切れの悪い言い方に、続きを促す。
「名前…呼んでくれない?これから一緒に暮らしていくのに、ずっと“君”だと、ちょっと寂しいかなって。」
彼女にとって、それだけを言うのに、結構勇気を費やしたのだが、彼のほうは少し面食らったような表情を見せただけで、あっさりと了解した。
「じゃぁ、優。一通り案内もできたし、一度リビングに戻ろうか。」
「えっ?!あっ、はいっ!」
確かに名前を呼んでほしいとは言ったが、いきなり名前を呼び捨てにされるとは思わず、驚いていた。
(なんか、珀斗君ってなんとなく、すごい…。)
そんなことを思いつつ、彼女は珀斗の後ろについて、階段を下りていった。