Whimsically.

《アゼルディーシャ・ディ・シュペルヴィエル》

どうして僕はこんな色で生まれて来たんだろう。
どうして僕はみんなと違うんだろう。
どうして僕は弱いんだろう。
どうして。どうして。どうして――。
部屋の片隅でうずくまり、考える。
ここは安全だ。考えを邪魔するものは何もない。
今ここに入って来る事ができるのは同じ種類の力を持つ兄とこの力の使い方を教えてくれたあの人だけ。
空間を司るこの力で、この部屋を外界から切り離しているから。
だから、ひたすらネガティブに悩むこともできる。
この白い髪と白い肌と白濁した右目と血の色が透ける左目。遺伝子疾患のこの色彩は異常で異様で悪い意味で目立つだけ。何も良い事なんてない。そして、その視線を跳ね返す術を自分は持たない。自分は兄ほど強くはないから――。
去年の自分達の十歳の誕生日を機に父と共にイタリアへ渡った双子の兄。彼も白い髪や紅い目をしていたが、それを気に病む事もなく、いじめる奴らには果敢に刃向かっていき、勝利を収める。そんな兄に憧れと強い羨望を抱いていたが、もう守ってくれる兄は子供には遠い隣国にいて、すぐには助けて貰えない。だから、自分は自分で守らなくてはいけないのだが――。
(どうしたらあんなに強くなれるのか、全然わかんないよ、アーシャ)
自分は何か言われてもただひたすら耐えるだけで、兄のように立ち向かう事はとてもじゃないが出来そうにない。もし向かって行ったとしても返り討ちにあって終わりそうだ。
思わず涙が出そうになるが、ぐっと堪える。目が腫れてしまえば、母に心配をかけるだけだ。
(アーシャ、会いたいよ……)
どれほどそうしていただろうか。不意に結界が揺らぐ。
「……アーシャ?」
「アルディ」
顔を上げると、考えていた兄その人がいた。
「どうしたんだ?母さんが心配してたぞ。ずっと部屋から出てこないって。結界まで張って、何かあったのか?」
同じ色彩を持つ兄は、心配を表に出し声をかけてきた。
「アーシャ……」
「ん?」
のろのろと近付き、そっと抱きつく。すると優しい兄はゆっくり抱き返してくれた。
「何かあったのか?」
優しい声で訊ねる兄の胸でかぶりを振る。
「アーシャが来てくれたから、もう平気」
「そうか。無理はするなよ?」
「うん」
優しく頭をなでてくれるその感触に、安心感でいっぱいになる。兄はやっぱりすごい。
(僕もアーシャみたいになれればいいのに)
そんな事を思う。
しばらく抱きしめ合っていたが、アルディの方からゆっくり離れる。
「アーシャ、どうしてここに?」
「アルディと母さんに会いに来た」
「そっか」
週末など時間のある時には、よく兄は家に遊びに来ていた。今日もふらりとやってきたのだろう。そして、自分の様子を見に来た。
「ありがとう、アーシャ」
「何がだ?」
「なんでもない」
兄と一緒にいれば、それだけで安心して幸せになれる。幸せだったひとときを思い出せる。
ふと零れたお礼だったが、兄には意味が分からなかっただろう。でもそれでいい。
(こんな僕でも、いつか幸せになれるんだろうか)
ふと浮かんだ疑問だったが、それは誰にも答えがわからない問いだったから、奥底に閉まっておく。
いつか、わかればいいと思う。それが、いい方の答えだと尚良い。
「アーシャ、ずっと側にいてね」
「もちろん」
今は、兄と共に。
To be continue.

2020/06/29 up
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